2. 不等流計算¶
2.1 基礎式¶
不等流の場合,流れの様子はどうなるでしょう。 一章で示した表示法に従って, 任意の 2 つの断面間で流れの状態を描いたものが 図-2.1 です。
図-2.1 不等流の表示
想定した 2 つの断面を,
各々断面 1,断面 2 とし,
各断面の諸量には断面番号の下付き数字をつけることとします。
また,図中に新たな \(h_f\) なる量がでてきますが,
これについて説明しておきましょう。
図から一見してわかるように,\(h_f\) は 2 つの断面の総水頭差,
すなわち,
各々の断面で流体がもつエネルギーの差を表わしているわけですが,
これは,流体が断面間を流下するときに失なわれるユネルギー
(水頭)にほかありません。
この損失は,水が流下するとき,
流水と川底がこすれたりして生ずる摩擦に由来するところから,
\(h_f\) のことを摩擦損失水頭と呼ぶことにします。
以上のことから,任意の 2 つの断面間では,
次式がなりたつことがわかると思います。
ここで,\(z\):河床高 (m), \(h\):水深 (m), \(V\):流速 (m/s),
\(h_f\):摩擦損失水頭 (m), \(\mathrm{g}\):重力加速度 (m/s2)
すなわち,上式が不等流を表わす式であります。
そして,この式は水頭に換算されたェネルギーが任意の個所で等しいという,
我々をとり巻く大自然を支配する”エネルギー保存の法則”を具現したものの 1 つとなっているのです。
また,ここで不等流の場合,河床勾配 \(i_b\),
水面勾配 \(i_w\)
およびェネルギー勾配 \(i_e\) は,水深や流速が違う分,
各々異なるということに注意しておいて下さい。
これをもって,一応,任意断面間でなりたつ不等流の式を導きだすことができたわけですが,
これを,より単純な形で表示するため,
さらに一般化してみたいと思います。
まず,図-2.1 では,
対象とする 2 つの断面間の距離は \(\ell\) (m) でしたが,
これを徴少長さ \(\Delta x\) (m) とします。
つまり,微少区間を考えることにより,
より細かな現象を捉えることを可能とするわけです。
次に,摩擦損失水頭 \(h_f\) ですが,
これは図-2.1を見てもらえば,
ェネルギー勾配が \(i_e = h_f / \ell\),すなわち,
\(\ell\) を \(\Delta x\) とおくと,
\(i_e = h_f / \Delta x\) となることがわかり,これから,
と表わすことができます。
以上のことを念頭において,式(1) を書きなおすと,
上式において,右辺から左辺を引いて, 各項を \(\Delta x\) で割ると,
ここで,\(\Delta x\) をさらに微少量として, すなわち,限りなく 0 に近い長さとして \(dx\) で表わし, また,\(z\) や \(h\), \(V^2/2\mathrm{g}\) の変化量も \(dz\),\(dh\), \(d\bigl( V^2/2\mathrm{g}\bigr)\) で表わすと式(4) は,
となります。また,水位 \(H\) は,\(H = h + z\) であるので,
となります。このように表わした式(5) および式(6) が,
不等流における流れの微少変化を表わした”徴分表示”というものです。
ところで,式(5) および式(6) にあるエネルギー勾配は,
実際にどのようにして算出すればよいでしょうか。
この \(i_e\) は,下記の式(7) を用いて算出することができます。
ここで,\(V\):流逮 (m/s), \(n\):粗度係数,\(R\):径深 (m),\(i_e\):エネルギー勾配
これが,不等流の平均流速式です。
なお,このような形をもつ平均流速式をマニング型の式といい,
今後,頻繁に使われることになります。また,
この中にでてくる \(n\) を(マニングの)粗度係数といい,
河床の粗さや形状などに左右される抵抗を表わすものといわれており,
厳密には,きわめて高度な科学的見地より決められねばなりませんが,
実用上は,実測値からの逆算や推定などからあらかじめ決められている既知値として扱っていくこととします。
さらに,\(R\) は径深というもので,
流水断面積もしくは流積 \(A\) (m2) を潤辺
(断面において水に潤っている辺の長さ \(S\) (m))で割ったもので,
と表わされるものです。 この辺の概念は,図-2.2 をみて把握してください。
図-2.2 用語の定義
一般の大部分の河川のように,水深に比して川幅が広い場合は, 径深 \(R\) は水深 \(h\) に等しいと見なしてさしつかえありません。 すなわち,
となり,このような断面を広矩形断面と称しています。
さて,式(7) から \(i_e\) を求めると,
また、平均流速 \(V\) は流量 \(Q\) (m3/s) を流積 \(A\) (m2) で割ったものであるので,式(10) は,
となり,これを式(6) に代入して,\(V=Q/A\) などとおくと
となります。
この式(12) は,最終的に不等流を表わす基礎式となり,
今後,頻繁に使われるものなので,確実に覚えておいて下さい。
ここで,特に広矩形断面の場合においては,\(R \sim h\)
とおくことができました。
また,流積 \(A\) は川幅 \(B\) (m) と水深 \(h\) (m) の積で表わされることから,
式(12) は,
となり, これが広矩形断面をもつ水路の不等流計算の基礎式となります。
2.2 流れに関する 2, 3 の注意¶
さて,式(12) までたどりついてこれを駆使すれば,
実際の不等流計算ができるところに到達することができました。
しかしながら,その前にもう少し式の表わす流れの性質を,
今後のこともあるので吟味しておきたいと思います。
考えやすいように,広短形断面の不等流,
すなわち式(13) について調べてみましょう。
\(H\) は水位であるので \(H = z + h\) となり,左辺第一項は,
ここで,\(h\):水深 (m),\(z\):河床高 (m)
また,流量 \(Q\) は一定,川幅 \(B\) も一定とすると,左辺第二項は,
これを,\(dh/dx\) について整理して解くと,
また,上流から下流に向かう方向を \(x\) の正の向きとすると, \(-dz/dx = i_b\)(河床勾配)となることから,
となり,
最終的に一般的な不等流の式を,水深の場所的変化(\(dh/dx\))を表現する式として,見方を変えて書きかえることができたわけです。
この式(18) をみると,分子 = 0 すなわち,\(dh/dx=0\)
となって,水深が場所的に変化しないような場合が考えられますが,
このときの水深を等流水深といいます。
これを以下で求めてみましょう。分子 = 0 より,
これを \(h\) について解いたものが等流水深 \(h_0\) であり, これが,
で表わされるものです。
つまり,等流とはいたる所で水深の等しい特別な流れといえるわけで,
このときの水深が式(20) で表わされるものなのです。
一方,式(18) については,分母 = 0,
すなわち \(dh/dx = \pm \infty\) となるような場合が考えられます。
このような場合の水深を,限界水深といいます。
分母 = 0 より,
となり,これを \(h\) について整理し,
で示されるものです。
そして,\(h > h_c\) の流れを常流,
\(h = h_c\) の流れを限界流,
また,\(h < h_c\) の流れを射流と定義します。
ところで,式(22) については,\(Q = B h_c V\) を代入し
て,両辺を 3 乗して整理すると,
ここで,\(V\):平均流速 (m/s)
ゆえに,このとき,
となることがわかります。 左辺の流速を重力加遠度 \(\times\) 水深の平方根で割った数を, 特にフルード数と称することとします。 つまり,この定義に従えば,式(24) で示されるように, 限界流では \(F_r\)(フルード数)は 1 となるわけです。 また,常流は \(F_r < 1\),射流では \(F_r > 1\) となるわけですが,これについては,各自証明してみて下さい。 なお,これらのことを表-2.1 にまとめておきます。
区分 |
特性 |
---|---|
常流 |
\(h > h_c, F_r < 1\) |
限界流 |
\(h = h_c, F_r = 1\) |
射流 |
\(h < h_c, F_r > 1\) |
ここにいたって, 常流,射流という流れの区別ができたわけですが, このような区別が意味するところは, ”ある水深(限界水深)を境に性質の異なる流れの形態が存在する”ということになるでしょう。 そして,この違いは射流の場合,下流側でなんらかの乱れが生じてもその影響を受けないが常流ではそのような影響が上流に及ぶという流れの性質に由来して生じているのです。このような性質は,後で解説する計算の手法上においても, 重要なものなので覚えておいて下さい。
2.3 広矩形単断面の不等流計算¶
それでは,いよいよ実際の不等流計算に臨んでみることにしましょう。
初めて計算を行う人のために,本節では不等流計算の中で最も初歩的な広矩形単断面の例から考えていきたいと思います。
もう一度,図2.1 および式(13) を見て下さい。
対象とする最小の計算区間を 図-2.1 のように,
上流側断面 1,下流側断面 2 の間と設定します。
ここで,式(13) を実際の計算に用いることができるように,
諸量の差をもって表すこととします。
ここで注意しておきたいのは流最 \(Q\) は一定としていること,
第三項目は断面 1 での値と断面 2 での値の平均となっていることです。
ゆえに,両辺に \(\Delta x\) をかけ,左辺に下流側, 右辺に上流側の諸量を示す項をもってくると,
また,水位 \(H\) を河床高 \(z\) と水深 \(h\) の和で表すと,
となり,このような表わし方を差分表示といって,今後,
基礎方程式を実際に計算機を用いて解く場合,
広く使われる手法です。
次に,式(27) の中でなにが既知量か,
なにが未知量かを考えてみましょう。
まず,流量 \(Q\),河床高 \(z\),河幅 \(B\),
断面間の距離 \(\Delta x\) は既知量として与えられます。
また,重力加速度 \(\mathrm{g}\),
粗度係数 \(n\) も定数として与えられます。
結局,水深 \(h\) が未知量として求めるべきものとなりますが,
式が 1 本しかないのに,上流側の水深 \(h_1\)
と下流側の水深 \(h_2\) を未知量として,
両方同時に求めることはできません。
そこで,どちらか一方の水深が既知量として与えられなければならないのですが,
ここにいたって,
2.2 節で示された流れの性質が問題となってくるのです。
すなわち常流の場合,流れの変化は下流から上流に及び,
射流ではこれが上流方向に及ばないため,
常に流れは上流から下流に変化します。
この事実を計算にも適用し,
常流の場合下流から上流方向へ,
射流の場合上流から下流へ計算を進めていくことにします。
つまり,常流の場合下流側の \(h_2\) が既知量として与えられ,
上流側の \(h_1\) を求めていけばよいわけです。
なお,断面がいくつかある場合は,
下流端の水深が境界条件として与えられ,
上流に向かって断面間の計算を逐次行っていくような方法をとることになります。
それでは準備が整いましたので,今後は実際に演習問題をとおして理解を深めてもらうことにしましょう。
演習問題 1¶
粗度係数 \(n\) = 0.02,河床勾配 \(i_b\) = 1/1,000, 河幅 \(B\) = 200 m の広矩形断面に, 流量 \(Q\) = 2,000 m3/s が常流で流下するときの水面形を求めよ。 ただし,下流端の水深を 5 m, 河床高を 0 m とし,\(\Delta x\) = 500 m のピッチで上流 5 km 地点まで計算すること。
演習問題 2¶
粗度係数 \(n\) = 0.02, 河床勾配 \(i_b\) = 1/100, 河幅 \(B\) = 200 m の広矩形断面に, 流量 \(Q\) = 2,000 m3/s が射流で流下するときの水面形を求めよ。 ただし,上流端の水深を 1.4 m, 河床高を 50 m とし, \(\Delta x\) = 500 m と \(\Delta x\) = 100 m の 2 とおりのピッチで下流 5 km 地点まで計算すること。
演習問題 3¶
河床高および川幅が下表に示されるような広矩形断面河川に, 流量 \(Q\) = 1,500 m3/s が流下した場合の水面形を求めよ。 ただし,粗度係数 \(n\) = 0.025,下流端の水深を 2.5 m とする。
断面番号 |
下流端から |
河床高 |
河 幅 |
---|---|---|---|
1 |
0 |
0 |
300 |
2 |
500 |
0.5 |
320 |
3 |
1000 |
0.9 |
280 |
4 |
1200 |
0.8 |
250 |
5 |
1800 |
2.0 |
300 |
6 |
2100 |
2.3 |
300 |
7 |
2500 |
3.0 |
320 |
8 |
3000 |
3.0 |
350 |
9 |
3300 |
3.5 |
300 |
10 |
3800 |
4.0 |
250 |
2.4 一般断面の不等流計算¶
一般の河川は,高水敷があったり,河床でも凹凸があったりして,
矩形の単断面で表わされるようなものはかなり稀な例といえます。
そこで,本節では前節より飛耀して,
一般断面の不等流計算法について解説していきたいと思います。
ところで,このように,潤辺に多くの凹凸がある場合でも,
用いられる基礎式は先に示した不等流の式と同じような形で,
と表わすことができます。
ただし,第二項目の \(\alpha\) は新しくでてきたエネルギー補正係数というもので,定義づけが必要です。
また,平均流速 \(V\) やエネルギー勾配 \(i_e\)
についても凹凸のある全断面の平均値なので,
単断面のように簡単にだすことはできません。
そこで,このような断面を 図-2.7
のように小さな矩形のブロックに分けて考えることが有効となります。
図-2.7 一般断面形
全断面を幅 \(\Delta y\) で \(N\) 個の細かいブロックに分割し, 第 \(i\) ブロックの諸量について考えると, ここでの断面積は,
ここで,\(h_i\):\(i\) ブロックの水深,
\(\Delta y_i\):\(i\) ブロックの断面幅
また,分担流量は,
となります。
ここで,\(u_i\) は \(i\) ブロックにおける平均流速を表わしてお
り,先に示したマニングの公式から算出できます(式(7) 参照)。
上式の中で,\(r_i\) は \(i\) ブロックの径深であり, 断面積を潤辺で除して求められますが,図-2.7 で表わされるように, ブロック分けした細かい矩形断面の潤辺は, 断面 \(\Delta y_i\) に近似できることが一見しでわかることから,
となることがわかります。これを式(31) に代入すると,
となります。
なお,\(n_i\) は \(i\) ブロックのマニングの粗度係数,
\(i_e\) はェネルギー勾配を表わしています。
ゆえに式(30) は,
ところで ,上式の総和が断面における全流量となることから,
となります。ここで,ェネルギー勾配 \(i_e\) は, 断面のいたるところで近似的に一定とみなせることから, 上式より,
と表わすことができます。
また,新たにでできたェネルギー補正係数 \(\alpha\) は,
と表されることがわかっており, これを諸量の定義に従って書き改めると,
となります。
ゆえに,式(28) は式(37),式(38) などより
となるわけです。
一見複雑でむずかしそうな式ですが,
根底には不等流の基本式(28) があることを念頭において下さい。また 式(39) が,
一般断面における不等流計算の基礎式となるので,
しっかりと使えるようにしておきましょう。
なお,先にでてきたェネルギー補正係数 \(\alpha\)
の意味について詳しく知りたい方は,
他の水理学解説書を参照して下さい。
それでは,以上で得られた式を使って実際の計算に取組んでみましょう。
まず,その前に例によって基礎式 (2.39) を差分表示して,
計算のできる形に書き換えておきます。
ただし,上流側断面を 1,下流側断面を 2 として,
各々の諸量に添字としてそれらの番号を付すとします。
これで準備は整いました。 以後は,各自が演習問題をとおして実践力を養っていって下さい。
演習問題 4¶
下図に示すような複断面河川において, 流量 \(Q\) = 1,500 m3/s が流下した場合の水面形および分担流量を求めよ。 ただし,低水路幅,河床高および計算断面の断面間隔は前出の演習問題 3 と同一とする。 また,下流端の低水路の水深は 1.5 m とする。