おわりに

 われわれをとりまく自然界では, 物質とそれに作用するカがさまざまな現象を生みだしでいます。 その中の水理現象というものは水という流体に力が働き, それ自体が流動し, 他に影響を及ぼせば自らも影響を受けることで生ずるもので実に興昧深く,かつ,奥の深いものです。 ここで掲載してきた内容は,いかにも複雑でむずかしくみえる水理現象を, どうしたら簡潔に,実用的な範囲で扱っていけるかを示したものといえます。 その第一歩は,根本的な考え方を明確に捉えることですが, これは,物質と力に規定される事象はいかに複雑なものであっても物質の収支と力のつり合いが根源にあるということが, 不等流計算の式が流体のエネルギーバランス, 流砂連続式が土砂量の収支から導きだされていることからうかがい知れると思います。 ただし,基礎式はこのように明確な事実から構築されているとはいえ, これを解くときに使われる境界条件や種々のパラメータ, 分布の形態などにはまだまだ未知の部分があるのも事実ですし, これらが問題の扱いをむずかしくしているともいえます。 そして,これを補い助けていくものが現場で得られる実測データであります。 ただし,実測データをとるだけで解析が行われなければ, 際限なく変化する水理現象へ対応しきれないでしょう。 いわば,解析と実測は車の両輪ともいえるものです。 したがって,それらの重要性を認識して両者に相通ずることが適切, かつ効果的な河川の制御へ生きてくるのではないかと思います。 さらに冒頭でも触れましたが,このような水理現象への考え方を理解するときに大いに役立つものが, その実践であります。 このような目的に答えるべく,本稿には多数の演習問題を載せ, その中には考え方から電卓計算の例,そしてコンピュータを使った計算およびプログラムを添付しておきました。 なお,河川研究室では,掲載したプログラムは請求があれば提供しますので,ご連絡下さい。
 さて,本稿の内容は一次元の流れと河床変動計算という内容で一応締めといたしますが, もちろん,これは水理現象のほんの一端に触れたに過ぎません。 すなわち.流れや河床変動には,より構造的,空間的な特性が厳然として存在し, これを説明しなければ真の再現とはいえません。 しかしながら,仮に対象を 1 次元から 2 次元へと拡大すると, その取扱いは飛躍的にむずかしくなります。 2 次元の流れや河床変動計算については他 1)に譲ることとしますが, 本稿の内容が理解できれば, さらに 1 ステップ上の手法の習得につながることは前述したとおりですし, また,現場で抱える多くの問題も今まで学んだことで実用的に十分対処できることも事実です。 その意味で,本稿が現場の河川技術者はもとより,多くの方々の参考となれば幸いに思います。


1) 清水康行・板倉忠興:河川における2次元流れと河床変動の計算,土木試験所報告,第 85 号,昭和 61 年 10 月.